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長嶋茂雄の怪
闇夜のスポット・ライト
1971年の1刷では巨人の長嶋茂雄がAB型の選手として登場し、AB型の典型として賞讃される。

人間ライン
1982年の198刷では長嶋茂雄がB型の監督として登場し、B型の典型として罵倒される。
 
いったい血液型人間学とは何なのか?
1.長嶋AB型バージョン(1971年) 誉めまくり
1刷 p64-65 AB型の典型とされたB型の長嶋茂雄
代表的なAB型に、読売ジャイアンツの長嶋茂雄がいる。 彼は、打撃、守備、チーム・ワーク、チーム内外の人間関係、マスコミとのつき合い、ファンへのサービス・・・・・・と、八面六臂の超人的な熱中を示し、呆れるほどの能率をあげている。 彼の生活は、野球を中心とした合理性に貫かれている。
 
彼の"物忘れ癖"は、愛嬌となって、ファンに喜ばれているが、合理的な彼にとって、これだけが計算外の効果であろう。 この健忘症は、ただ、野球に対する、プロ意識に徹した集中が、原因となっているのであろう。 だが、AB型が具体的な"物"への執着が少ないこともたしかだ。
 
長嶋は"燃える男"と言われ、いかにも激情家のように思われがちだが、つまりはピンチにたてば、いっそう野球への集中力が増すだけなのだ。 野球のように、格闘スポーツに比べれば理知的(計算的)スポーツはカッカすると、かえって弱い。
誉めまくり。 とにかく何でも誉めまくる。 欠点である「物忘れ」さえ「野球への集中力」でカバーされる。 健忘症は、「物への執着心の薄さ」というAB型特性を創作し付加され、解決される。 野球は理知的スポーツとまで言い放ち、他の血液型の野球選手の存在を忘れて、長嶋の人格に色づけを行う。
2.長嶋B型バージョン(1982年) 貶しまくり
198刷 p58-59 B(BO)型の欠点例として利用された長嶋茂雄
(B型は連携が不得意と説明し)
 
国民的アイドルスターであったBO型長嶋茂雄が野球に打ち込む姿は、その華麗なプレーで大観衆をわかせた選手時代、監督時代を問わず大きな魅力となっているが、ともすれば野球チームの監督として長嶋に風当たりが強かったのは、この"連携"が特に必要とされる立場であったからに他ならない。
 
長嶋監督が、時に、天啓のようなアイデアをひらめかせ、観客の喝采を浴びたことも時たまはあったが、それは監督の職務中で数少ない個人技の部分である。
 
BO型の高度な才能と、部下の育成力を集団としての軌道にのせるのには、どうしても引き立て役、バック、参謀、女房役が必要なのだ。
(中略:田中角栄の話なので)
長嶋の最大の不幸は、この大才能を生かすための支え役、選手やフロントとのコミュニケーションを円滑にする橋渡し役が、スタッフにいなかったことに尽きるのではないだろうか? そして、もう一つの悲劇は、相も変らぬBO型の政治性の欠如と、人事面の情報力不足から、哀れなほどツンボさじきにおかれ、抜き打ちのように解任されたことであろう。
なぜかAB型の典型だった長嶋が、なぜかB型になったとたんに、悪意を丸出しに貶しめられる。 その時々の一場面を都合良く切り取り、人格を決めつける血液型人間学には、整合性など必要ないらしい。 しかし何とも薄っぺらい内容だ。 スポーツ新聞の見出しだけ読んで作ったような文章だ。
 
“ツンボさじき”は差別用語である。 既に1982年までに視覚・聴覚障害者団体等が、マスコミの不適切用語の使用に対して、何度も抗議をしていたはずだ。 著者(改訂者)のセンスが良くわかる。
 
これ以後、息子はB型の典型例として長嶋茂雄の失敗談を多用する。 B型全員=長嶋であれば、B型全員が天才バッターであり、もはや野球という競技は成立しなくなる。 同様に長嶋の失敗談からB型全体を語るのは、考えるまでもなく愚かな行為である。
能見俊賢は長嶋が「子供(一茂)を球場に置き忘れて帰ったエピソード」等を繰り返し使用し、長嶋の物忘れをB型の典型とする。 立教大学卒の長嶋が卒業学部を聞かれて「野球部」と答えた笑い話がある。 日本大学史学科卒の能見俊賢は、日外アソシエーツの経歴質問票に、大学の専攻分野を「血液型人間学」としている。 長嶋の失敗談を笑える立場にはないのだが。
1刷と198刷のキーワードを抽出して比較・採点する。
3.AB型長嶋 vs B型長嶋 評価一覧
1刷:AB型 (選手で評価・採点)198刷:B型 (監督で評価・採点)
キーワード評価得点 キーワード評価得点
チーム・ワーク1 野球に打ち込む姿(魅力)2
チーム内外の人間関係1 監督として風当たりが強かった(連携不足)××-2
マスコミとのつき合い1 天啓のアイデアで喝采を浴びたのは時たま×-1
ファンへのサービス2 (喝采は)数少ない個人技の部分×-1
八面六臂の超人的な熱中2 橋渡し役の不在×-1
呆れるほどの能率2 相も変わらぬ政治性の欠如×-1
合理性に貫かれた生活2 情報力不足×-1
物忘れは愛嬌(計算外の効果)1 哀れなほどツンボさじき××-2
物忘症はプロ意識に徹した集中が原因1 抜き打ちのように解任××-2
AB型は物への執着が薄い0
ピンチに立てば集中力が増す2
理知的スポーツ(計算的)2
合計得点17 合計得点-9

1刷のカテゴリーは「人間性」であり、キーワードは「人間関係・集中力・合理性」に集約される。 198刷でのカテゴリーは「マネジメント」であり、キーワードは「管理能力不足・社会性の欠如・思いつき采配」で社会から排除される存在とする。 選手から監督に立場が変われば評価の尺度も変わり、同列に比較はできないが、善意が雲散霧消し素地の悪意がむき出しになったのは確認できる。
 
AB型だと長所を拡大して何でも合理性で塗り固めた人物像を作り上げ、B型だと短所を増幅して何でも社会性の欠如に仕立て上げ人間を矮小化する。 これが血液型人間学の血液型人種主義だ。 この差別思想を紙に刷って世間にバラ撒くのが、血液型人間学という差別産業だ。
 
血液型人間学は世界を照らしだす太陽の光ではなく、暗闇の一部を浮かび上がらせるスポット・ライトでしかない。 ライトの向き加減次第で、浮かび上がる像が違うのだ。 同じ長嶋という人物に違う血液型記号を与えると、こうも違う方向に光を当てる。 しかもライトは善意と悪意の色つきだ。
ここでの善意は、悪意のための善意である。
「木を見て森を見ず」というが、これは「木を見せて森を見せない」イカサマ手法で、人間という大きな存在の一部を強調する「闇夜のスポット・ライト」でしかない。
4.当たらない血液型占い
1刷出版の後に、能見正比古は長嶋がB型だと分かり、監督解任劇に関して批評をする。
B型:長嶋 O型:王
長島はB型。よくいえば天衣無縫、悪くいえば八方破れの行動ペースで、指揮官には向いていない。監督で成功しているのは圧倒的にO型で、水原、西本、上田、古葉がいい例です。 王もO型だが、O型には二つのタイプがある。一つは職人的技術を習得し、それをより深くきわめる型。もう一つは極端に強い勝負師性を身につける型。王は前者のタイプだ。バッターとして専門家になりすぎたから将来、監督になっても英雄になり得るかは疑問だ。
「長嶋」が「長島」となっているが、原文のママである。本書では「長嶋」で表記する。
週刊現代 1981年2月12日 「新大関・千代の富士の長島、王とは違う『A型英雄論』」 p34 能見正比古
能見正比古は長嶋がAB型だと「合理的」と持ち上げておきながら、1980年に巨人監督を解任されると手の平を返したように「B型は指揮官に向いていない」と言う。 長嶋の「合理性」はどこへ行ったのか? ついでに現役を引退し、助監督に就任したばかりの王には「職人的技術習得者のバッター専門家に監督の能力は無い」とはなむけの血液型占いを贈る。
ここで能見は「バッター専門/職人」という言葉を使うが、王は自らを「バットマン/技術者」と呼び、職人という表現は「使い方によって良くも悪くもとれる」と嫌う。
長嶋は巨人の監督として復帰し、終身名誉監督という名誉あるタイトルを授与され、アテネオリンピック・野球日本チームの監督に就任した。 王はジャイアンツを経てホークスの監督として活躍し、WBCでは日本チームを率い、苦しいながらも見事に優勝を果たし、誰からも尊敬される不動の地位を築いた。
長嶋はオリンピック直前に脳梗塞で倒れ指揮を取れなかった。 しかし病身にありながら監督の地位に留まり、中畑コーチが監督代行を勤めた。 長嶋がどれだけ偉大で尊敬される人物であるかを、強烈に物語るエピソードだ。
血液型人間学の教祖親子の占いを信じて人間の能力を限定してしまうと、人間はそこで終わってしまうということだ。 長嶋も王も監督として厳しい時期もあったが、試練を乗り越え、能見親子の占いによる決めつけとは真逆の大活躍を果した日本野球界を代表する英雄だ。 血液型人間学の小さな枠の中で、可能性を閉ざす不自由を強いられるほど、実物大の人間は小さくないのだ。これが人間という大きな存在に対する「動かせない事実」だ。
野球の監督には血液型性格分類の信奉者がおり、選手の管理に使用する。 有名なところでは野村監督・田淵コーチらが居る。 高校野球の監督にも信奉者がおり、ときおり新聞・週刊誌で自説を披露する。 監督という重責で神仏にもすがりたい心境が、身近にある血液型性格分類を利用するのだろう。
長嶋茂雄 経歴
王貞治 経歴
1958巨人入団
1959巨人入団
1971血液型でわかる相性 第1刷 「長嶋賞讃」
1974現役引退
1975〜1980 10/21巨人監督第一期
1977ホームラン世界新記録達成 国民栄誉賞
1980 11/3現役引退・巨人助監督就任
1981  2/12週刊現代記事 能見正比古 「長嶋・王 能力否定」
1981 10/30死去 能見正比古
1982血液型でわかる相性 第198刷 「長嶋罵倒」
1984〜1988巨人監督
1993〜2001巨人監督第二期
1995〜ホークス監督
2001〜読売ジャイアンツ終身名誉監督
2002〜2004アテネオリンピック野球日本代表チーム監督
2006 3/20WBC初代監督 優勝
2006 9/27死去 能見俊賢
長嶋・王が受賞した賞は、沢山ありすぎて全部は記載できない。
5.どこまでも長嶋を嘲笑する血液型人間学
血液型性格事典
公私、上下、家の中と外などのケジメがなく、B型の典型である長嶋茂雄元巨人軍監督などは、子どもを球場に連れていき、そのまま忘れて帰ってしまうなどといううっかりも平気でやってしまいます。
血液型性格事典 p34 監修:NPO法人 血液型人間科学研究センター PHP研究所 2007
長嶋は2004年3月4日に脳梗塞で倒れ、現在(2008年1月)も病気療養中である。 多くの国民が一日も早い長嶋の回復を願う中で、血液型人間学はB型を愚弄する道具として長嶋を利用し続ける。 長嶋とは偉大なる業績を尊敬する対象ではなく、失敗談を嘲笑する見下げた対象であるらしい。
 
病気療養中の人物を嘲笑できるケジメがない姿勢は、一つの能力であり、普通の感覚の人間には真似できない。 NPO法人 血液型人間科学研究センターは、B型の典型として長嶋を嘲笑し続けた能見俊賢の遺志を継ぎ、「人間科学」の名の下に、B型に負のイメージを擦りつける血液型人間「学」を世間に流布するのだ。
6.人間が人間を語る人間の言葉
長島茂雄 青春伝
私が取材でこれまで会ってきた人たちは、有名・無名とを問わず、いずれも「長島さんは日本のプロ野球にかけがえのない人だ」「かれによって生き甲斐を教えられた」「長島さんがいたから野球に情熱を燃やすことができた」「感謝している」「長島さんを目の当たりにしたことを誇りに思う」「百年に一度、出るか出ないかという天才だ」「周囲がかれをみじめにさせないでほしい」「人生のよろこびを教えてくれた」「頑張ってほしい」というような言葉をかならず前置きした。
 
単に観衆だけでなく、会った人、つきあった人がみな尊敬・思慕・憧憬・いたわりの気持ちを失っていない。こういう存在は、プロ野球の世界のみならず、ほかのどうのような世界にもないのではないか。王貞治もまたまことに立派な人格ではあるが、長島茂雄が持つような天性の不思議な魅力ではない。
「どうのような」原文ママ
「長島茂雄 青春伝」 p231 岩川隆 立風書房 1993
素朴な言葉が並ぶが、どれも人間が人間を語る人間の言葉であり、そこには一つ一つの真実の積み重ねがある。 人間:長嶋の人柄を語る作業の積み重ねには、著者:岩川隆氏の人柄が色濃く反映されている。 岩川氏の人柄と長嶋の人柄が、混然一体となって完成したのが「長島茂雄 青春伝」だ。 岩川氏の人柄があって、長嶋の人柄を語れるのである。
 
「人を語る」ということは、「自分を語る」ということなのだ
 
読後爽快、元気を与えてくれる一冊だ。 絶版になっているが、機会があればぜひ手にして頂きたい。
7.文献リスト
= 参考文献 =
■ 「長島茂雄 青春伝」 岩川隆 立風書房 1993
■ 「王貞治『回想』」(人間の記録12) 王貞治 日本図書センター 2000
王貞治が現役引退までの人生を振り返る自伝。 一つの仕事を極めた人だけに言える言葉が並ぶ。 一気読みしてしまうが、何度でも読み返せる一冊。 王貞治の父親の言葉もグレイトだ。
■ Wikipedia  長嶋茂雄  王貞治
 
■ 週刊現代 「新大関・千代の富士の長島、王とは違う『A型英雄論』」 能見正比古 1981年2月12日
■ 週刊現代 「執念や根性は嫌い。甲子園はIQと血液型の勝負やな」 池田高校:蔦文也 1984年8月11日
■ Sports Graphic Number No.333 「天才を科学する」 1994年2月17日
 
■ 朝日新聞 朝刊 「出演、緊張したなあ」 前阪神タイガース打撃コーチ 田淵幸一 2004年1月1日
■ 朝日新聞 朝刊(大分26) 「第88 回全国高校野球選手権 大分大会」 2006年5月20日
■ 朝日新聞 ネット 「蔦監督をたたえる催し」 2007年11月30日
 
■ 全日本野球会議 野球日本代表 オフィシャルサイト
 
■ 差別用語の基礎知識’92 高木正幸 土曜美術社 1992
 
= 参考通俗本 =
■ 血液型性格事典 監修:NPO法人 血液型人間科学研究センター PHP研究所 2007 
 
= 取材協力 =
■ 報知新聞 面倒な事を丁寧に調べて頂きました。ありがとうございました。
■ 暫定非営利活動邦人 血液型偏見差別研究センター ■

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